渡哲也さんは西部警察の男くささとは違っておちゃめだった
石原プロに若手俳優が数人入ってきた時のこと。渡さんが舘さんを呼び出し、「今度の若い連中は挨拶も何も全然なっていない。きちんと厳しく指導しろ」と厳命した。舘さんが若手を集めて叱っていると、ひょっこり渡がやってきて「何をしてるの。かわいそうじゃないか、みんな解散していいよ」と言い出した。舘さんが「え~、そりゃないですよ」と口をとがらせると、渡さんは笑いをこらえていたそうだ。会社のトップが中間管理職をからかっている図式だ。
一方、石原裕次郎さんが大動脈瘤で入院していた際、多くのファンが病院にまで押しかけたことがある。駐車場には石原プロの白い大型車が3台ほど置かれ、その前にファンが名前を記帳する台が設けられた。だが、しばらくすると、大型車にファンが裕次郎さんへの応援メッセージを落書きし始め、最終的に車は真っ黒になってしまった。実は、最初に「裕次郎さん、がんばれ」と油性マジックで落書きしたのは渡さんだった。この落書きをワイドショーが「こんなにたくさんのファンのメッセージが……」と大々的に伝え、結果的に裕次郎さんの闘病を劇的なものに変えた。
また、周りに人家もない原野で渡さん主演の映画撮影でのエピソードも興味深い。極寒の中、石原プロ得意の炊き出しが行われたが、スタッフのひとりが「石焼き芋が食べたいな」とつぶやいた。翌日、煙を出しながら石焼き芋の車がやってきた。こんな原野に石焼き芋屋さんが来てくれるはずもないので、渡さんが「買っちゃえ」と提案し、新車のトラックを購入したそうだ。スタッフは感激して芋を食べながら仕事に精を出したという。
豪快で、かつ皆を驚かす発想を持つ渡さんのエピソードだ。合掌。