「づめさんくらいうまい役者の芝居を見ると情けなくなる」
俳優として高い評価を得るようになった三郎は、共演者と親しくなることも多い。中でも気が合ったのは橋爪功である。「づめさん」「サブちゃん」と呼び合う仲だとか。
「ドラマで共演した俳優座出身の細川俊之さんに、『新劇ではセリフをしゃべる時、腹式呼吸なんですか』って聞いたら、当たり前だろといわんばかりの顔で、『そうです』と答えた。同じ質問を文学座出身のづめさんにしたら、『なあに、そんなの関係ねえよ』と言った。『かっこいいな、このオッサン』と思って、すぐ親しくなりました。かみさんの店(門前仲町の料理屋『花菱』)にもよく来てくれます」
橋爪主演のテレビドラマ、赤かぶ検事奮戦記シリーズでは、警部役でレギュラー出演。NHK朝の連続テレビ小説「すずらん」(1999年)で共演し、現在も交友が続いている。
「づめさんくらいうまい役者の芝居を見ると、こっちが情けなくなってくるね」
その橋爪から一緒に舞台をやらないかと誘われたのは2011年のことだった。
「電話で、『ゴドー、知ってる?』って聞くんだ。『知ってるよ』と答えたら、『ええ? 知ってんの』と驚いてる。俺だって『ゴドーを待ちながら』ぐらい知ってますよ。『ベケットの不条理劇だろ』と言ったら、さらに驚いてた。『俺とやらないか』と言うんで、『やるよ』『本当にやるか』『やる』ということで決まった。それも新国立劇場で。脚本読んだら、さっぱりわからない。不条理劇なんだからしかたないんだけど、やってるうちに面白くなってきてね。考えてみりゃ、東映の大部屋上がりが、名優相手に不条理劇をやったんですから、もう怖いものはない。何があっても驚かなくなったね」