映画「無頼」上映記念特別対談 主演松本利夫×井筒和幸監督
衣装は大事。道を外れているからこそ服にこだわる
――今回の映画で苦労したことは?
松本「役作りですね。僕の役は敗戦後の混乱と貧困の中で育ち、アイスキャンデー売りや、他人の家の屋根の銅板をはがして売り払うなど、生きるためには何でもやった男です。それをいかに自分のものにするか、井筒組の小冊子で勉強しました」
井筒「『パッチギ!』もそうだけど、井筒組は必ず作るんですよ。修学旅行のしおりみたいなのをね」
松本「主人公の年譜や時代背景、裏社会の隠語などをまとめたものです。まず主人公のバックボーンを頭に入れてから台本を覚える。そうやって少しずつ体になじませていかないとセリフひとつでも深みがなくなる。そのあたりのウソっぽさを監督がすぐ見抜くので怖かったですね」
井筒「頭で考えたセリフ回しなんかすぐわかるからね」
松本「その代わり、一発でクリアすると、監督の会心の掛け声『ポーン!』が出るんです。よっしゃ、今日は『ポーン』が出たぞってみんなで喜ぶんです」
井筒「現場の士気を高めるために言う場合もあるんやけどな。でも、めったに言わんよ。『ポーン』の安売りはしない」
松本「3カ月くらいほぼ泊まりがけで撮影していたので、その間、現場以外でも役が抜けづらかった(笑い)。それにしても衣装替えは多かった。100着ぐらい着ました」
井筒「映画屋はいろいろ凝るんだけど、衣装は大事やね。特に這い上がってきたヤツらは、ほかにはない服を着る。道を外れているからこそ服にこだわるんとちゃうか」
松本「前半の襲名披露のシーンは魚臭かった」
井筒「尾頭付きの鯛が照明で腐ってな(笑い)」