談志師匠宅で留守番中にあの暴走事件は起きてしまったのだ
師匠が海外の落語会に行き、いよいよ明日帰国するという日、何かの加減で練馬の師匠宅の不在を一人守る(?)ことになった俺……。
といっても、何かすることがあるわけでもないから、暇な時間だけが過ぎていく、そのうちに人間だから腹が減ってくる、その時、脳裏をよぎったのは先日、師匠の知人より送られてきた高級ハムであった。
「あれ、3分の2くらいまだ冷蔵庫に入ってるはずだなあ……」と思った時にはすでに遅し……師匠が大事に(?)食べていた高級ハムは半分へとその姿を変え、さらに「う~む、ハムが3分の2くらいあったろう?」と疑われた時、「いえ、3分の2くらい食べたの勘違いじゃないですか」とごまかせばいいか~!! と自分の都合もいいところ……実は師匠はマジに焼き魚の骨までフリカケにして食べるドケチ……いや節約家、物を大切にする方なのでごまかすのは至難の業だったのだろうか、なにしろその時の俺は「どーせ飾っとくだけで飲まないんだから、1本くらい大丈夫だろー! えーと、確かこのワイン〇十万円とか言ってたよなあ」とグビグビグビとラッパ飲み、気がつけばお届け物の箱はいくつも空き、ワイン、洋酒のすすむことすすむこと……その酒池肉林になった俺は、こともあろうに奥の和室の桐のたんすにたたまれている〇百万円もの大島紬やら結城紬を何枚も重ね着し、師匠愛用のテンガロンハットをかぶり、師匠お気に入りのフレッド・アステアやジーン・ケリーのタップダンスのリズムに合わせて踊っていたのだった。
そして、そのことに気付くまでにさほどの時間はかからなかったのである……。 =つづく