故・柳家小三治さんが貫いた「孤高の芸道」 演芸評論家が振り返る“師匠に怒られたある質問”
「小さく、小さく」
雑念を払い、受けたいと思って技巧に走ったり、期待に応えたいという欲にとらわれないようにするための魔法の言葉。それは師匠の5代目柳家小さんから「おまえの噺は面白くねえな」と言われた若い頃、悩んで、古今亭志ん生に聞いたこんな言葉からくる。
「落語を面白くすんにはな、面白くしようとしねえことだ」
小さんからも「笑わせるところで笑わせるな。おまえみたいに噺の途中の面白いところでいちいち笑わせようとしたら、噺が噺じゃなくなっちゃう」と言われ、噛みしめた。そうやって終生、自分を戒め、芸に向き合い、磨いた。
■「荒れた野原をぐるぐるあちこち歩き回っているようなもんだ」
演芸評論家の渡邉寧久氏はこんな思い出を明かす。
「2、3年前でしたか、小三治師匠の対談の司会をする機会がありまして、私がつい“芸の高みに上るという表現もありますが、師匠は今、山で例えると何合目あたりでしょうか?”なんてつまらない質問をしたんですね。そしたらえらく怒られまして、“芸というのは荒れた野原をぐるぐるあちこち歩き回っているようなもんだ”とおっしゃったんです。決して高みを目指すようなものではないし、ずっと芸を探しているということなのでしょう。求道者のような印象でした」
孤高の芸道を究めた落語家人生だった。