「ドライブ・マイ・カー」大快挙も…アカデミー賞に見る日本の映画製作の課題
特に近年のアカデミー賞は、映画製作に変革を与える作品が受賞しやすい傾向にあります。今年でいうならば『コーダ あいのうた』は、フランス映画『エール!』(2014)のリメイクでありながら耳の聞こえない家族の中で唯一の聴者である主人公が自分の夢と家族の未来について思い悩み、全員が一歩前に踏み出す姿を、実際のろう者俳優陣を家族役に起用したことも話題になり、大きな感動を生みました。
以前から映画業界で議論されている、トランスジェンダー役や本作のろう者役など、当事者が当事者役を演じるべきではないか、という議論における一つの成功例として映画史に残るものとなりました。ただ個人の意見としては当事者がその役を演じることには賛同しつつも、演技の出来る当事者を発掘することが映画界においての今後の課題であると考えています。
■『ドライブ・マイ・カー』がなぜ世界で認められたのか
『コーダ あいのうた』の取り組み以外にも、今回のアカデミー賞からハリウッドの映画製作と日本を見比べると、人種やジェンダー、障害などの差別に対する映画製作の取り組みにおいて日本が世界に遅れを取っているように思われます。今回もアカデミー賞では才能ある女性監督を増やすことを意識し、実力者のジェーン・カンピオンが女性監督として映画賞史上3人目の受賞。日本からの作品であるはずの『ドライブ・マイ・カー』についても、大手の映画配給会社ではなく、日本国内での観客受けを意識して製作されていません。さらに多言語、多国籍の人々との関わりも交えながら、約3時間という時間をかけて一人の男の喪失と再生を描くという挑戦に出た作品です。
これからの世界に認められる映画作りとは、社会に目を向けてジェンダーバランスや障害を持つ人々にも力を借りることを意識した映画作りなのではないでしょうか。映画で社会が変えられることを信じての映画製作を。