なぜ今、ジュリーと水谷豊の本が話題なのか?「過去形の人生」を生きる読者の共感
「プライベートなことはほとんど話さなかった」と水谷豊
水谷と松田優作との友情もよく知られている。
「まだお互いに名前が売れる前に始まっているから、格好をつけなくていいし、優作ちゃんには何でも言える、何でも話せるって感じがありましたね。ただ、家庭とか、プライベートなことはほとんど話さなかった。長く付き合うのって、お互いが気楽でいられる方がいいでしょ」(水谷豊自伝)
優作が膀胱がんを患うと水谷も患ったが、優作のほうが重篤だった。リドリー・スコット監督の「ブラック・レイン」撮影終了直後、病状が悪化した。優作を見舞った水谷は、新妻の伊藤蘭と新婚旅行に旅立った。水谷が戻ってきた翌日、優作は亡くなってしまう。水谷は棺に覆いかぶさって泣き崩れたという。
現在、沢田はテレビから遠ざかり、ライブを中心に活動をしている。今年6月25日のバースデーライブには2万人近いファンが詰めかけ、3時間以上、歌い、跳び、はねる圧巻のワンマンショーで会場を熱狂の渦に巻き込んだ。水谷は「相棒」で“ちょっと嫌みな冷たい”杉下右京警部を演じ続けて23年になる。
今なぜこの2冊が読まれているのか。私見だが、この2人は「過去形」ではないからだと思う。読者の多くは現役を引退して「過去形の人生」を生きている。だが、“後期高齢者”のジュリーが「時の過ぎゆくままに」を歌えば、一瞬にしてあのころの甘酸っぱい青春が蘇る。一方で、政治的メッセージソング「我が窮状」を歌う。いつまでもジュリーは時代のアイコンであり続けるのだ。
水谷の本は、日本では数少ない名優自身が語る貴重な芸能史でもある。
(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)