ルビー・モレノらを発掘した芸能事務所社長・稲川素子さん「彼女は元気、ときどき電話をくれます」
稲川素子さん(外国人専門芸能事務所社長/89歳)
1990年代、ドラマ「愛という名のもとに」(フジテレビ系)や映画「月はどっちに出ている」で活躍したフィリピン出身の女優ルビー・モレノ(58)。彼女を発掘したことなどで知られた所属事務所の社長・稲川素子さんも、個性的なキャラでインパクト抜群だった。稲川さん、今、どうしているのか。
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稲川さんに会ったのは、東京メトロ・六本木駅から徒歩5分の自宅兼事務所。あれ、稲川さん、ずいぶん痩せたのではないか。
「今、45キロで、これが理想体重です。昔、一番大きかったときは72キロ。でも、今も食欲はあります。甘いものが好きで、練乳のかかったかき氷を食べるのが楽しみですね」
稲川さん、こう一言一言噛みしめるように言って笑った。
実は、稲川さんは10年前にがんを発症し、手術や放射線、抗がん剤治療を繰り返してきた。それでも、笑顔は明るい。
「大腸のがんが肝臓、肺と転移し、いろんな治療を受けましたが、なかなか完全には消すことができずにいます。この8月に抗がん剤治療を再開しました。副作用はあまりないので、がんのせいで痩せたわけではありません。年齢的なものと、糖尿が出ていたので、一人娘の佳奈チャンが、食事を気遣ってくれてダイエットしたからなんです」
この日も佳奈子さんはそばに付き添っていた。佳奈子さんはピアニスト。米国人と結婚し米サンフランシスコを拠点に活動していたが、稲川さんが在宅での酸素吸入や車イスが必要になったため、稲川さんを支えるために昨年、リタイアした夫とともに日本へ拠点を移したという。
現在は親子3人暮らし。佳奈子さん夫婦に子どもはなく、稲川さんの夫は、2006年に亡くなっている。
「娘を産んだときは、男の子を期待していたのでガックリでしたが、今は娘で本当に良かったと思っています。娘なら気を使いませんから(笑)。ワタクシは今、朝はゆっくりと9時ごろに起き、娘が用意してくれる食事をいただく毎日です。大好きなのは牛乳、卵、バター、チーズ……最高のごちそうはベーコンエッグ。18歳のとき、あのダグラス・マッカーサーが教会でワタクシを見かけ、食べさせてくれたのがベーコンエッグだったんです。当時のワタクシは栄養失調で痩せ細っておりましたから、マッカーサーとの出会いがなければ、今、生きておりません。命の恩人ですね。第一生命ビルにマッカーサー記念室があると聞き、昨年暮れに訪れ、胸像を目にしたら、思わず抱きつき涙が止まりませんでした」
がんを患いながらも、床に伏せっているわけではないのだ。公益財団法人日本ボールルームダンス連盟会長をはじめ、河口湖音楽と森の美術館館長など12の役職を務め、会議に出席したり、大会で挨拶したりするなど活発に社会活動を続けているというからビックリだ。
「元気ぶっているんです(笑)。こうした活動をしているからか、4年前には、中国・南京市のコンベンションに娘と一緒に招待されました。ノーベル賞を受賞されたような立派な教授ばかりが集まる前でステージに上がり『南々々々 南京さん……』と、『南京言葉』という日本語の童謡を歌ったら大ウケでした。どこからそんなエネルギーが湧いてくるのか? 神様にいただいております(笑)」
「会議などの予定がないときは、学術論文を読んでいます。それから、週1回、理学療法士に来ていただいてリハビリをしています。筋肉が落ちてしまったのでね。テレビはほとんど見ません。学ぶことが人生の楽しみです。若い頃は体調を崩し慶応義塾大学を中退したので、65歳のときに再入学し、72歳で東京大学大学院に入りました。全優の成績で修士課程を修了し博士課程に進み、今、行政学の論文の審査を受けているところです。まもなく認められ学位をいただけると思うので、卒寿の来年、すべてをまとめて公表しよう、と。ほかにも、何か新しいことをやりたいですね」