著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

「ゴールデンウィーク」は映画業界の宣伝用語だった 疑わしさで満ちるは政治という現実か、映画という虚構か

公開日: 更新日:

現職首相への「帰れ」とくれば、やはり安倍晋三元首相

 メディアはこの日を今年のゴールデンウィーク初日と位置付けたが、その過ごしかたは人それぞれだ。翌日に補選を控えた衆院東京15区(江東区)においては、この日は選挙活動最終日。過去最多の9人となる候補が乱立したことで、かなり緊迫した空気につつまれたと聞く。渋谷区の代々木公園では第95回メーデー中央大会が行われた。芳野友子会長率いる連合が仕切る労働者の祭典に、小池百合子都知事、武見敬三厚労相、立憲民主党泉健太代表、国民民主党玉木雄一郎代表らとともに出席したのが、第101代内閣総理大臣の岸田文雄氏である。

 午前10時半過ぎ、政府代表としてスピーチに立った岸田首相は、年内に物価上昇を上回る所得を必ず実現し、来年以降で物価上昇を上回る賃上げを必ず定着させると強調した。政治家とは、まだ実現していない、あるいは実現するかどうかわからない世界をよどみなく語る因果な職業なんだなあ。疑わしいことこの上ない。その〈疑わしさ〉を裏付けるかのように、スピーチの途中、参加者の一部から「帰れ」と野次が飛んだ。式典後、連合の芳野会長は記者団に「国民としてさまざまな思いが政府に対してあるというのは理解できる」と指摘しつつも、「来賓に組織内から野次が飛んだということは、非常に申し訳ないと思う」と詫びた。実質上の謝罪だった。

 現職首相への「帰れ」とくれば、2017年7月にJR秋葉原駅前で街頭演説を行った安倍晋三元首相を思い出す向きもあるだろう。安倍氏は野次を飛ばす聴衆に向かって指を差し、「こんな人たちに私たちは負けるわけにはいかない」と言い返した。当時、反論する安倍氏を子供っぽいと呆れる人は多くいたが、いま、反論せぬ岸田氏を大人だねと称える有権者がいるわけではない。

 Xフォロワー数15万人超を誇る戦史・紛争史研究家の山崎雅弘さんは「搾取される日本の労働者が、搾取側の岸田首相に『帰れ』と野次を飛ばすのは普通でしょう。普通じゃないのは、搾取側の岸田首相を『来賓』としてメーデー中央大会に呼び、野次られた搾取側の岸田首相に『お詫び』している連合の芳野友子会長ですよ。この人も頭の中は搾取側」とポスト。ぼくもこれにはストンと腑に落ちましたねえ。

 話は〈エスパス・ビブリオ〉にもどる。午後3時、3人が登壇してイベントはスタート。司会進行役を担当するのは、この映画に唯一直接関わっていないぼくだ。まず観客に訊いてみた。『東京の嘘』を観たことがある人は手を挙げてください、と。すると、挙手したのは関係者を除けばなんと2人だけ! そこまで少ないと、もはや『東京の嘘』の存在自体が嘘のようでもある。これぞ「カルト映画」の面目躍如。つまりこの鼎談は「実際に観ていない客ばかりを集めて映画のトークイベントは成立するか」という社会実験なのだ。音楽の世界では〈架空の映画のサントラ〉は珍しいものではない。ならば〈存在があやしい映画のトークイベント〉があってもいいじゃないか。疑わしさで満ちているのは、政治という現実か、映画という虚構か、あるいはその両方か。

 こうしてぼくの黄金週間は始まったのである。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 2

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  3. 3

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  4. 4

    三浦大知に続き「いきものがかり」もチケット売れないと"告白"…有名アーティストでも厳しい現状

  5. 5

    フジ火9「人事の人見」は大ブーメラン?地上波単独初主演Travis Japan松田元太の“黒歴史”になる恐れ

  1. 6

    清原果耶ついにスランプ脱出なるか? 坂口健太郎と“TBS火10”で再タッグ、「おかえりモネ」以来の共演に期待

  2. 7

    広末涼子が危険運転や看護師暴行に及んだ背景か…交通費5万円ケチった経済状況、鳥羽周作氏と破局説も

  3. 8

    広末涼子容疑者「きもちくしてくれて」不倫騒動から2年弱の逮捕劇…前夫が懸念していた“心が壊れるとき”

  4. 9

    芸能界を去った中居正広氏と同じく白髪姿の小沢一敬…女性タレントが明かした近況

  5. 10

    松嶋菜々子の“黒歴史”が石橋貴明セクハラ発覚で発掘される不憫…「完全にもらい事故」の二次被害

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 2

    フジ火9「人事の人見」は大ブーメラン?地上波単独初主演Travis Japan松田元太の“黒歴史”になる恐れ

  3. 3

    PL学園で僕が直面した壮絶すぎる「鉄の掟」…部屋では常に正座で笑顔も禁止、身も心も休まらず

  4. 4

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  5. 5

    三浦大知に続き「いきものがかり」もチケット売れないと"告白"…有名アーティストでも厳しい現状

  1. 6

    松嶋菜々子の“黒歴史”が石橋貴明セクハラ発覚で発掘される不憫…「完全にもらい事故」の二次被害

  2. 7

    伸び悩む巨人若手の尻に火をつける“劇薬”の効能…秋広優人は「停滞」、浅野翔吾は「元気なし」

  3. 8

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  4. 9

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  5. 10

    下半身醜聞の川﨑春花に新展開! 突然の復帰発表に《メジャー予選会出場への打算》と痛烈パンチ