肺がん<1>自宅で家族会議を3時間 長男の言葉に涙が出た
高額な治療費の支払いは、がん患者に共通した悩みである。年金生活者の橋本さんも例外ではなかった。
真っ先に親族たちの顔が浮かぶ。しかし、親族たちとの間に深い事情があり、プライドもあって「金を貸してくれ」とは言いにくい。
■「俺たちの生活も大変だけど…」
自宅で家族会議を開いた。橋本夫婦には3人の子どもがいる。長男と長女、それに次女。しかし3人とも余裕がある生活ではない。そのうえ長女や次女には、まだ大学や高校に通学している育ち盛りの子どもたちがいた。
しんみりとした家族会議が3時間に及んでも、結論が出ない。最後になって、間もなく50歳となるトラック運転手の長男が話をまとめた。
事前にネットで「肺がん」にかかる治療費を検索し、知識を得ていたようで、こう言ったという。
「母さんはがん保険も入っていなかった。だいたい、肺がんの治療費総額は平均200万円ぐらいで、高額療養費制度を利用しても、毎月10万円前後の治療費になる。俺たちも生活が大変だけど、きょうだい3人で、毎月1人当たり、2万円の援助で我慢してくれないか……」
橋本さんは、子どもたちの意見にただ沈黙する以外にない。月総額6万円の援助が決まった。
それでも高額な治療費の支払いに、橋本さんの不安が消えたわけではない。年が明けて2018年1月、国立がん研究センターでの治療が開始された。