著者のコラム一覧
奥野修司ノンフィクション作家

▽おくの・しゅうじ 1948年、大阪府生まれ。「ナツコ 沖縄密貿易の女王」で講談社ノンフィクション賞(05年)、大宅壮一ノンフィクション賞(06年)を受賞。食べ物と健康に関しても精力的に取材を続け、近著に「本当は危ない国産食品 」(新潮新書)がある。

認知症の人はつらさや寂しさ、悲しさをより敏感に感じている

公開日: 更新日:

 佐藤さんが、つい「励ましの言葉」を言うのは、心の中で「認知症になったら、多少強く言っても分からないだろう」と思っていたからだ。

 しかし、認知症の人には、こうした言葉は「叱られている」と受け止められることが多い。この父親にしても、これまで当たり前にできたことができなくなったうえ、それをわが子に指摘されるのである。こんなにつらいことはないだろう。「本人は何も分からないから幸せだけど、つらいのは介護する家族よ」とよく聞くが、当事者もつらさや寂しさ、悲しさはより敏感に感じているのである。

 では、どうしたらいいのだろうか。

 39歳で認知症と診断された丹野智文さん(認知症の人が不安を持つ当事者の相談を受ける「おれんじドア」実行委員会代表)はこんなことを言ったことがある。

「朝起きると、コーヒーを入れてテーブルに置くのですが、さてと席に着くときに別のことを考えたりすると、自分はコーヒーを持ってきたことも忘れます。あれ、誰が入れたんだろう? 妻かな? 『コーヒーを入れてくれてありがとう』と妻に言うと、妻は『いいよ、いいよ。でも、パパは自分で入れたんだけどね』と笑っています。もしこれが『何言ってるの、自分で入れたでしょ』と強く言われたらイライラの原因になります。また、お風呂を入れてと言われて、栓をしてフタもするのに、(お湯張りの)スイッチを忘れているんです。自分でも失敗したことが分かっているんです。でも、妻は笑ってくれます」

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    阪神岡田監督の焦りを盟友・掛布雅之氏がズバリ指摘…状態上がらぬ佐藤輝、大山、ゲラを呼び戻し

  2. 2

    離職後、定年後は何をしたい? 第2位「まだ考えていない」…では第1位は?

  3. 3

    悠仁さま「進学に向けた勉学の大切な時期」でも続く秋篠宮家と宮内庁の軋轢

  4. 4

    旧ジャニーズ自社タレントの誹謗中傷に通報窓口設置も…「当事者の会」見て見ぬふりの“二枚舌”

  5. 5

    もはや任意じゃなくて強制…12月2日のマイナ保険証一本化に向けて強まる国民への包囲網

  1. 6

    阪神岡田監督の気になる進退 来季続投がスジだが…単純にそうはいかない複雑事情

  2. 7

    厚労省が職員9万人を対象に「マイナ保険証アンケート」の愚策…エグすぎる質問事項の“大きなお世話”

  3. 8

    “終わった説”から大逆襲!巨人・菅野智之「最後の全盛期」を手繰り寄せる意外な要因とは

  4. 9

    機内食の猛クレームで通路で土下座をさせられました

  5. 10

    初V京都国際の《正体》と《左腕王国の秘密》…野球部“以外”の男子生徒わずか12人