「しっかりしてよ」励ましの言葉が認知症の人を傷つける
家族が犯しやすいミスに「言葉」がある。何げなく使った言葉で、認知症の本人が人格を壊されるような傷を負うこともある。
佐藤さんが実家に戻ってきた頃、父親はまだ足腰も元気だった。頑固とはいえ、自分の介護のために帰ってきた息子に感謝していたのだろう。自分で風呂の湯を入れたり、少しは家事を手伝うこともあった。全自動だからボタンを押すだけでいいのだが、どういうわけか風呂の栓をしないでお湯を入れてしまう。
すると佐藤さんは、「あ~あ、余計なことをしてくれて」と、ぶつぶつ言いながら風呂を入れ直した。
父親がトイレで大便をした後、流さずに出てきたら大変である。引きつったような顔で、「クソしたのも忘れたのか。しっかりしてくれよ、親父」と言うのである。
家族がつい口にしてしまう言葉がある。
「また忘れて」
「さっきも言ったでしょう?」
「しっかりしてよ」
「変なこと言わないで」