うつむくと悪化…その頭痛は副鼻腔炎が原因かもしれない
うつむくと、頭痛がひどくなる。そんな人は「副鼻腔炎」を疑った方がいい。日本頭痛学会の理事で、元山梨医科大学医学部脳神経外科助教授の「ながせき頭痛クリニック」(山梨県甲斐市)の永関慶重院長に話を聞いた。
■2.8%が該当
頭痛の原因はさまざまあり、痛みの強さ、痛む場所、持続時間、症状などは人により異なるが、頭痛は大きく2つに分けられる。
「頭痛は他の疾患のない1次性と他の疾患が原因となる2次性頭痛に分けられ、その9割は『片頭痛』や『緊張型頭痛』『三叉神経・自律神経性頭痛』などの1次性で、2次性は1割程度といわれています。2013年に発表された国際頭痛分類第3β版では2次性の中に、頭蓋骨、頚、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口あるいはその他の顔面・頚部の構成組織の障害による頭痛あるいは顔面痛が分類されており、その中に副鼻腔炎による頭痛が記載されています」
片頭痛はズキズキ、ガンガンといった激しい痛みが4~72時間ほど続き、悪心や嘔吐を伴い、寝込む人も多い。
緊張型頭痛は鉢巻きを巻くあたりがキリキリと痛む。くも膜下出血は突然、激痛が起こり、吐き気を伴う。髄膜炎による頭痛は激烈な痛みとともに38~40度を超える熱に襲われる。
「一方、副鼻腔炎による頭痛は、これまで経験したことのない顔面のにぶい痛みが一日中続き、前かがみになると強い痛みを感じるのが特徴です」
永関院長が2019年までの16年半の間に、頭痛を訴えて受診した患者3万1431人を調べたところ、副鼻腔炎による頭痛は883例(2.8%)だったという。
「患者さんの多くは、副鼻腔炎が原因で頭痛が起きることを知りませんし、耳鼻科の先生方はいちいち頭部MRIを撮らないので副鼻腔炎に気づかないケースも少なくありません。私は脳神経外科が専門ということもあり、頭痛でいらっしゃる患者さんの7割は頭部MRIを撮る。見落としがありません。よく分からない不調で困った末に来院され、原因と治療法を知りホッとされる患者さんが多いのです」
鼻の中は鼻腔と副鼻腔からできていて、副鼻腔炎とは鼻腔の周りの副鼻腔が炎症を起こす病気だ。かつては「蓄膿症」と呼ばれていた。
「顔の真ん中にある鼻の中の穴を正式には『固有鼻腔』と言います。副鼻腔はその周りにある穴のことを言い、『上顎洞』『篩骨洞』『前頭洞』『蝶形骨洞』が左右2つずつ合計8つに分かれています。副鼻腔は奥で目に隣接しているとともに、いずれも固有鼻腔と一部でつながっています。上顎洞は左右の頬の内側、篩骨洞は左右の目の間の奥、その上に前頭洞があり、篩骨洞の奥に蝶形骨洞があります」
それぞれの内部は空洞で、空気が入っており、薄い粘膜がついた骨に囲まれている。頭部を軽くして衝撃を和らげるためだ。粘膜にはごく小さな毛(繊毛)が生えている。
繊毛は一定の方向に並んでおり、外から入ってきた異物などを分泌物でからめ取り、副鼻腔から固有鼻腔へ排泄する。
■歯の炎症から来ている場合も
「しかし風邪などで細菌やウイルスが感染して鼻腔が炎症を起こすと、鼻腔と副鼻腔をつなぐ穴が塞がることがあります。すると、鼻腔への粘液排出がうまくいかず副鼻腔の中の粘液に細菌やウイルスが繁殖して膿がたまり、腫れて目や頬のあたりが痛くなるのです。また、粘液に混ざった膿が出てくるために、黄色い鼻水が出てきます」
副鼻腔炎は急性と慢性があり、急性副鼻腔炎が長引いたり、繰り返されたりすることで、3カ月以上症状が続くと慢性副鼻腔炎と呼ばれる。
「副鼻腔炎による頭痛のもうひとつの特徴は、4つの洞のどこに炎症が起きているかにより痛む場所が異なることです。例えば上顎洞に炎症を起こした時には頬、篩骨洞に炎症を起こした時には鼻根部、前頭洞に炎症を起こした時にはおでこが痛みます。また、蝶形骨洞の炎症では頭痛や頭重感があります」
頭痛を解消するにはその原因となる副鼻腔炎を治すことだ。副鼻腔炎の治療は①処置・局所療法②薬物療法③手術の3通りあるが、「ながせき頭痛クリニック」ではもっぱら②の薬物療法を行うという。
「抗菌薬は急性副鼻腔炎や一部の慢性副鼻腔炎で使います。人にもよりますが急性で4~10日間、慢性でマクロライド系と呼ばれる抗菌薬を3カ月を目安に使います。あとはロキソニンなどの消炎鎮痛剤や痰や鼻水を切るムコダインなどを処方すると症状が治まります」
副鼻腔炎は歯が原因で起きている場合もある。歯を診てもらうことも大切だ。歯の根の先が上顎洞に近く、歯および歯周組織の炎症が容易に上顎洞に移行するからだ。とくに小臼歯、大臼歯の虫歯から歯髄が感染し、その炎症が上顎洞の洞底を溶かして上顎洞粘膜に炎症が広がり、上顎洞炎を併発する。一説には、歯原性上顎洞炎は全体の1割以上、6~8割との説もある。