進化する新たな技術を手術に応用できないか常に考えている
前回、60代の男性患者の手術についてお話ししました。弓部大動脈瘤でこぶが大きくなった動脈を人工血管に交換したうえ、3カ所の冠動脈バイパス手術をいっぺんに行ったケースです。
首の頚動脈に人工心肺装置をつないで脳の血流を維持しながら、体温を28度まで下げる「低体温循環停止法」を実施する大掛かりな手術でしたが、術後の後遺症もなくほぼ完璧な手術ができました。
昔なら10人に1人くらいは亡くなっていたであろう手術を問題なく終わらせることができたのは、医療機器などの技術が大きく進化したおかげです。今回の手術では、事前に3Dプリンターを使って患者さんの心臓を立体的に作り、人工血管の通る最適なルートや理想的な完成形をデザインしてから手術に臨みました。もし現在のような進歩したCTやエコーといった画像診断技術が確立されていなければ、完璧な手術はできなかったかもしれません。また、人工心肺装置や人工血管など術中に使われる機器や材料の進歩も見逃せません。
以前であれば、難しくて手術できない、あるいは手術はできても一部の身体機能を犠牲にしてしまう可能性が高かったでしょう。しかし、技術の進歩によってそうした問題を起こすことなく手術できるようになったのです。