初孫ができて思い出す乳がんで亡くなった女性患者の言葉
そんな爺になった私が思い出すのは、乳がんで亡くなったFさん(65歳)という女性患者のことです。入院していた病室の枕元には3歳くらいのお嬢さんの写真が飾ってあり、こんなお話をされていました。
「私のがんは全身に進んでしまったし、死ぬのが怖いとか、生きていたいとか、そんなふうには思いません。ただ、この孫と別れるのがつらい。こんなかわいい孫とは別れたくない。小さな子は3歳までに恩を返してくれると聞いたことがありますが、それは本当だと思います。孫が世界で一番かわいいのです。こんなにかわいいと思うのは、やはり血がつながっているからでしょうか?」
■生命は受け継がれていくことに救いがある
宗教学に造詣の深い哲学者の梅原猛さんは、日本緩和医療学会特別講演で次のような話をされました。
「私たちの生命の中には永遠の生命がやどり、それが子孫に蘇っていく。自分は死んでも、遺伝子は生きていると考えれば、生命は連続的なものと科学的に考えることができる。この考えに立つと、がんの末期の人、死にゆく人々に対峙する時、慰めの心を持って対話ができるのではないか。この世の生命は受け継がれていくことに救いがある。生命は連続したものだという立場から自然な対話ができる」