マニュアルがないからこそ、患者に合った策を共に学んでいける
在宅医療では、最初から決められたマニュアルは存在しません。患者さんの状態はもちろん、患者さんやご家族の性格、考え方、価値観はそれぞれ違います。そんな患者さんやご家族の経験に寄り添いながら、どうすれば患者さんが心地良く過ごせるかを一緒に学んでいくのが在宅医療なのです。
膵臓がん末期の81歳の男性は1人暮らし。努力家で実直な性格で、これまで電器屋さんとして働いてきた方でした。「今まで何でも一人でやってきた。これからもできることはやりたい。体がつらい時は助けてもらえるとありがたい。この家で最期まで過ごしたい」と私たちに希望を語っていました。
担当するケアマネジャーさんは在宅看取りの経験がなく、当初は不安がっていたのですが、悩みながらも一緒に学び、在宅医療を開始して約3カ月後に、この患者さんを見送ることとなりました。
そのケアマネさんが語っていたことが印象に残っています。
「患者さんが『最期はやっぱり病院で』と言った時はどうすればいいのか正直悩みました。でも、先生が話してくださったおかげで、やっぱり家にいたいという言葉を聞けました。きょうだいとは音信不通と聞いていたけど、2日前に弟と妹に連絡していたらしいです。ご本人にとって一番いい形で最期を迎えられたと思います」
在宅療養を支えるさまざまなスタッフもいろいろな経験を一緒に乗り越えながら成長し、学んでいます。経験を積めば積むほど患者さんに示せる選択肢も増えます。在宅医療は本当に学びが多いのです。