O型には胃・十二指腸潰瘍が多い ピロリ菌は組織血液型抗原を利用
「ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)」も、組織血液型抗原を利用しています。ご存じの通り、胃や十二指腸にすみついて、慢性胃炎や胃・十二指腸潰瘍を引き起こす菌です。また、マルト・リンパ腫と呼ばれる胃がんの一種の原因にもなります。
実は1950年代から、胃・十二指腸潰瘍が、なぜかO型の人に多いことが指摘されていたのです。
イギリスの病院の疫学調査から明らかになり、その後、各国で行われた研究でも同様の結果が報告されてきました。しかし、当時はまだピロリ菌の存在が知られておらず、理由は長年分からないままでした。
それが1983年にピロリ菌が発見されたことからにわかに脚光を集め、分子生物学的な解明が急速に進んできています。ピロリ菌の表面にアドヘシンと呼ばれるタンパク質グループが発現していて、これが組織血液型抗原と結合することにより、胃壁に張りついているのです。アドヘシンは数種類に細かく分かれるのですが、その中でとくにBabAと呼ばれているタンパク質が、H抗原(O抗原)と強く結合します。そのためO型の人はピロリ菌に感染しやすく、胃炎や胃・十二指腸潰瘍になりやすいわけです。
ただし胃粘膜細胞には、組織血液型抗原だけでなく、約30種類の糖鎖が突き出ています。BabA以外のアドヘシンが、それらのどれかと結合できるため、O型以外の血液型にも感染できます。
多数の論文を総合的に評価するメタ・アナリシスと呼ばれる解析が行われ、A型の感染リスクを1とすると、O型のリスクは1.2、B型とAB型は0.7程度と評価されました。B型やAB型は、ピロリ菌には比較的感染しにくいのです。BabAがB型の組織血液型抗原に結合しにくいからだと考えられています。また、組織血液型抗原を持たない「非分泌型」の感染リスクも、やはり0.7程度です。
ただし、ピロリ菌にはさまざまな変異株があります。ヨーロッパのピロリ菌は、血液型の好みが比較的少ないと言われていますが、中南米の先住民から採取されたピロリ菌は、O型を強く好むことが知られています。中南米の先住民たちは圧倒的にO型が優勢であるため、それに適応したと考えられています。
残念ながら、日本ではピロリ菌と血液型の研究はほとんど行われていません。そのため日本のピロリ菌の好みは、まだよくわかっていません。