組織血液型抗原「分泌型」と「非分泌型」では腸内細菌叢が違う
組織血液型抗原(HBGA)を利用しているのは、ノロウイルスやピロリ菌ばかりではありません。腸内に普通にすんでいる常在菌たちも積極的に利用しています。彼らの多くは、ピロリ菌と類似のアドヘシン(接着タンパク質)を持っています。それがHBGAや、その他の糖鎖と結合することで、腸壁に張りついているのです。
ところがHBGAは「分泌型」と呼ばれる人(全人口の約8割)にしか発現していません。残り2割は「非分泌型」と呼ばれており、腸壁にHBGAが存在しません。それでも細菌たちは、別の糖鎖を使って張りつくことができます。しかし結合の強さが異なるので、分泌型と非分泌型の人では、腸内細菌叢の構成に違いがあるのではないかと考えられ、研究が進められています。
腸内細菌叢は、健康や免疫に大きく影響するため、いまや医学研究の一大分野に成長しています。最近では、DNAやRNAの解析技術が進んだこともあり、便中の菌種の構成が細かく調べられるようになってきました。
現在までに、非分泌型の人の便では、バクテロイデス属と呼ばれるグループが優勢になりやすいことが分かっています。このグループに属する菌は、グルコース(ブドウ糖)を乳酸や酢酸に作り変えることが知られています。一方、分泌型ではルミノコッカス属が優勢になります。このグループの働きはまだはっきりしませんが、植物繊維などの主成分であるセルロースを分解できます。
こうした働きの違いと人体の健康の関係は、まだよく分かっていません。しかし何らかの影響を受けている可能性はあります。
さらに便の研究から、分泌型の人は非分泌型と比べてサルモネラ菌(食中毒の代表的な原因菌)感染のリスクが高いことが分かってきました。クロストリディオイデス・ディフィシルという、腸内に毒素をまき散らして下痢を起こす細菌にも感染しやすいことも分かっています。弱い菌ですが、別の感染症で抗生物質を使って腸内細菌叢が乱れると悪さを始めることが多く、最近では院内感染が問題になっています。
非分泌型の人は、食中毒の原因菌には感染しにくいのですが、腸内細菌の一部が尿路や性器に感染しやすいことが明らかになりつつあります。とくに子供の尿路感染症や、成人女性の膣カンジダ症が起こりやすいと言われています。カンジダ菌も、腸内常在菌のひとつです。