著者のコラム一覧
酒向正春ねりま健育会病院院長

愛媛大学医学部卒。日本リハビリテーション医学会・脳神経外科学会・脳卒中学会・認知症学会専門医。1987年に脳卒中治療を専門とする脳神経外科医になる。97~2000年に北欧で脳卒中病態生理学を研究。初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長を務めた04年に脳科学リハビリ医へ転向。12年に副院長・回復期リハビリセンター長として世田谷記念病院を新設。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」(第200回)で特集され、「攻めのリハビリ」が注目される。17年から大泉学園複合施設責任者・ねりま健育会病院院長を務める。著書に「患者の心がけ」(光文社新書)などがある。

幻視、幻覚、被害妄想があった母を遠距離からどう支援したのか

公開日: 更新日:

「ま~くん、おるんよ」

 枕元に、母が座っていました。え、と思って時刻を確認すると午前3時でした。母が1人で暮らしている実家に帰省した時の出来事です。

「何がおるん?」と返事をすると、「あいつらが、また来とるんよ」と母がきつく言いました。とても怖くなりました。恐る恐る、「どこにおるの?」とたずねると、「お風呂場よ。こっちにおるから」と母が答えます。

「何か悪いことするの?」

「なんも悪いことはせんよ。でも、来とるんよ。こっちよ」

 母が風呂場に向かいました。仕方なく、眠たい目をこすりつつ、後に続きました。

「ほら、おるやろ」

「どこにおるん?」

「あそこよ。あの隅に、黒いのが3人おるやろ」

 愕然としました。もちろん、何もいないのです。

 私が「誰もおらんよ。人も見えないよ」と言っても、母は「……見えんの? あそこよ」と言い張ります。私は「本当に誰もおらんよ。何も見えんよ」と、答えるしかありませんでした。

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