コロナより怖い首都直下と南海トラフ地震 東西別地震対策
先月25日早朝、千葉県東方沖で発生した震度5弱の地震。前日にはメキシコでM7・4の地震も観測している。三浦半島の異臭騒ぎや浅間山の活発化……、いずれ来る巨大地震の前兆なのか?
◇ ◇ ◇
首都直下地震(東京湾北部地震)が発生すれば、死者数は最大1万1000人。原因として最も多いのが、「火災」(56%)による死者だ。
一方、南海トラフ巨大地震による大阪府の想定死者数13万3891人のうち、99・3%は「津波」で亡くなる。同じ巨大地震でも「火」と「水」に分かれるため、備えるべき方向がまったく違うと言っていい。
まずは東京だ。首都直下地震の人的被害で火災に次いで多いのは、「建物崩壊」(28%)、「急傾斜地崩壊」(8%)、「ブロック塀の倒壊等」(7%)の順。激しい揺れを原因とする被害が特徴で、倒壊・焼失建物の瓦礫は約9600万トンが想定される。
建物の倒壊というと古い木造住宅を思い浮かべるが、オフィス街や繁華街のビル群にも危険は潜んでいる。
「東京都が所管する1万平方メートルを超える建物については、震度6強から7に達する程度の地震で『倒壊、または崩壊する危険性』の建築物を公表しております。公表は、国の耐震改修に関する法律に基づいて義務付けられています」(東京都防災・建築まちづくりセンター)
現在、新型コロナウイルスの集団感染(クラスター)には高い関心を寄せている人は大勢いるが、同様に怖い地震の「建築物の耐震診断結果」までチェックしている人は少ないだろう。都からの再三の要請にもかかわらず対策が取られていない建物のうち、「倒壊し、または崩壊する危険性が高い」ものを〈Ⅰ〉に、「倒壊し、または崩壊する危険性がある」ものを〈Ⅱ〉に指定し、ブラックリストとして実名公表している。
もちろん、建て替えや耐震補強が済めばリストから外され、1年前に最も危険な〈Ⅰ〉に分類されていた「紀伊國屋ビル」(新宿区)も耐震工事が終わったため抹消されている。
改めて23区内にある建物ブラックリスト(表1)を見てみると、「銀座貿易ビル」(メルサGinza―2=中央区)などおなじみの名前が並ぶ。倒壊危険度〈Ⅱ〉も、西五反田の「第2TOC」(品川区)、「東京女子医大 東医療センター1号館」(荒川区)、「目黒区民センター/A棟・C棟」(目黒区)などがある。
オフィス街で「グラリ」ときたら、これまでなら落下してくるエアコン室外機や窓ガラスから身を守るため、建物内に逃げ込むのがいいとされてきたが、ビルによっては逆に瓦礫の下敷きになってしまう危険性があるのだ。また、延べ面積が狭いため公表を免れている古い建物も東京には多い。
大きな地震の後には同規模の余震がくることがある。東京では次の段階の火災に備え、周囲の安全を確認しつつ戸外の広い場所へ移るのが正解のようだ。
大阪府の死者は最大13万3891人
ところが、南海トラフ巨大地震はこれとはまったく逃げ方が違う。
「想定される死者数のうち、津波による被害がほとんどです。南海トラフが発生したら、津波は約2時間で大阪港に到達しますので、なるべく早く『津波避難ビル・水害時避難ビル』のマークのある建物の3階以上に避難してください」(大阪市危機管理室)
大阪府の被害想定では、最大13万3891人の死者のうち、津波を原因とするのがほとんどになる(表2)。揺れによる死者は735人(大阪市は198人)、火災は176人(同17人)と全体から見れば少ない。
■「津波避難ビル」のマークを見つけたら駆け込む
特に津波による死者は大阪市に集中しており、市内24区のうち17区に津波が押し寄せる。第1波は約110分後に大阪港に到達、波の高さは最大約4・4メートル(木津川水門付近)に達し、秒速7・2メートルで襲ってくる。猛ダッシュで逃げ切れるものではなく、水泳を習っていても泳ぎ切れるものでもない。
そこで大阪市は「津波避難ビル」を確保しているが、今年6月時点の確保状況は17区全体で総計約117万人分。大阪市の昼間人口が約353万人だから、場合によってはビルに入れず「あふれる」人も出てくる。
「避難ビルは日々、確保数を増やしています。市域内で働いている人は、地震がきたらとにかくビル内に逃げ込むよう心掛けてください」(前出の大阪市危機管理室)
地下鉄や地下街に閉じ込められたら、少なくとも2時間以内には脱出したいところ。確実に水の底に沈む。ビル内にいても、余震への恐怖感で広い公園など外へ逃げたくなるが、ぐっと我慢だ。
■静岡県下田市の津波は最大31メートル
また、南海トラフで静岡県は地震による最大死者数が10万5000人。やはり死者の91%(約9万6000人)を津波が占める。津波は下田市の最大31メートルを筆頭に、静岡市(駿河区)でも最大12メートル。第1波は伊東まで約19分で到達する。
お年寄りや車いす、小さな子供を見かけたら、この時間内で手を引っ張って高台へ避難しなくてはいけない。
そこで静岡県は古墳のような盛り土の公園、立体駐車場のような「津波避難施設」をつくり、避難困難地域の約9割をカバーしている。さらに避難訓練の県民参加率(33・6%)も全国1位、建物の耐震化率80%、家具等の転倒・落下防止策70%と、県民の防災意識レベルは高い。
被害規模は季節や時間帯によっても大きく異なり、最後にモノをいうのは自衛策。コロナによる自粛が解除され、東京や大阪に出張に来る人が増えているが、東西によって地震の常識は非常識に変わる。地域によって違う「地震対策」を頭に入れておきたい。