トリチウムの除染に成功したものの…共同研究者が明かした懸念と新たなアイデア
第1原発の敷地内にたまる処理水の量は約130万トン。1時間で数グラムしか分離できなければ、数十年かかっても全く追いつかない。除染技術の原理を得ても現場では使えないということだ。
■技術の発展に向け迫られた選択
「処理できる量の増加」と「高い分離効率の維持」──。さらなる技術の発展に向け、研究チームは選択を迫られた。
「フィルターにこだわるべきか否かです。まるでアルミの板に蒸気を通す感覚で、処理量を増やすことは困難です。研究主導者の井原辰彦教授(当時)は結局、多孔質材の持つ吸着・分離特性を利用する考えを維持しながら、別のシステムを選ぶことにしたのです」
それが、トリチウム水を残す多孔質体を顆粒状にするというアイデアだ。
「例えが適切ではないかもしれませんが、『宇宙くじ』ってご存じですか? あのように下から蒸気を吹きつけ、渦を巻く顆粒にトリチウム水を吸着させるイメージです。粒の素材は明かせませんが、フィルター素材を用いる装置の時とは別の民間企業と提携。処理量を飛躍的に伸ばすために、その企業の既存システムへの適用を目標に、素材選びや処理性能試験の共同研究を進めることにしました」
ところが、この斬新なアイデアは思わぬ壁にブチ当たってしまう。 =つづく
(取材・文=今泉恵孝/日刊ゲンダイ)