トライアウトで見えたプロ野球選手の運命論
剛裕がユニホームを着る20年前の83年、巨人にドラフト4位で入団したのが、後に「バントの神様」といわれた川相昌弘(現巨人ヘッド)だ。
投手として指名された川相は入団直後に野手に転向。守備やバントの技術を磨いて遊撃のポジションをつかみ、名選手に上り詰めた。人一倍の努力をしたのだろうが、運も良かったと思う。遊撃に不動のレギュラーがおらず、また当時の巨人には、いわゆる「いぶし銀」的な選手が決して多くなかった。その“エアポケット”に川相はすっぽりとはまった。
現役時代の川相の打撃練習を見たことがある。内野の頭を越える打球を打つような練習で、決して派手ではない。剛裕のロングティーの方が、近くで見たことを差し引いても、よほど迫力を感じた。
剛裕は川相とは違い、チャンスで打ったり、一発の魅力をアピールする必要がある。中日入団から10年、遠回りをしたかもしれないけれど、新天地でどんな輝きを見せられるか。環境が変わればプロ野球選手として少しでも長生きできるかもしれない。巨人で新しい運命を切り開いてもらいたいと、僕は願う。