メジャー「ハッキング事件」の陰に強豪の“何でもやる”精神
名門カージナルスの職員による「コンピューター・ハッキング事件」には驚いた。情報の最適化が進むこの時代、プロスポーツもここまできたかと思うと同時に、米球界で勤務していたころを思い出した。メジャーでは強いチームほど細かいことに力を注ぐのだ。
シリコンバレーのお膝元、ベイエリアに本拠地を構えるジャイアンツは、私が在籍した02年の開幕前に数千万円の投資をして一大プロジェクトを開始した。その名も「ビデオコーチング・システム」。
腕利きの技術者によって開発されたそのシステムは、大ざっぱにいえば公式戦の全投球をビデオクリップ化し、球団内にデータを蓄積。選手が試合中だろうと瞬時に再生できるシステムだ。今でこそメジャーはもちろん、日本や韓国のプロ野球でも全球団が取り入れているシステムだが、ジャイアンツの凄かった点は先見性とその細かさだった。
02年の開幕を控えたある日、私はセイビアンGMに呼ばれ、ビデオルームに招かれた。最新機器がズラリと並ぶデータの心臓部にはプログラムを開発した技術者と新顔のスタッフ2人がいて、彼らに2時間ほどレクチャーを受けた。聞けばこれまでビデオルームでしかできなかったデータ処理の作業が、マシンの小型化により遠征先でもできるようになったという。そこで遠征に帯同する私に目をつけたGMが、この業務に加わって欲しいと依頼してきたのだ。通訳としてジャイアンツに加入した私は、こうしてビデオコーチの肩書が加わり、試合中はロッカールームでビデオクリップの作成にいそしんだ。