2敗目の横綱稀勢の里 「借金2」で“特権行使”休場の根拠
「デッドラインは『借金2』でしょう。つまり、黒星が2つ先行した時点で休場ということになると思う」
相撲担当記者がそう言っている。
17日、前頭筆頭の遠藤(26)に押し出しで敗れ、初の金星を献上した横綱稀勢の里(30)はこれで2勝2敗。この担当記者によれば、「1場所15日制が定着した1949年の夏場所以降、千秋楽まで相撲を取って負け越した横綱は89年の大乃国、99年の若乃花の2人しかいない。言うまでもなく、横綱は場所の成績が進退に直結する。だから、負け越しが濃厚になると休場するしかない。普通はその目安が『借金3』ですが、ケガをした左上半身に不安を抱える稀勢の里の現状を考えれば、休場ラインはさらに下がる」というのだ。
取材歴50余年の相撲評論家、中澤潔氏はこう言った。
「私はそれを『横綱病』と呼んでいますが、確かに、負けが込んでくるとケガがなくとも古傷の診断書をとって、休場を申請するというのが、残念ながら一般的になっている。権威、名誉を守るための、ある種の横綱の特権です。この日、嘉風(35)に敗れて3敗目を喫した鶴竜(31)も休場が決まった。稀勢の里も苦しい。この日の相手の遠藤は、頭から当たって前に出るだけ、という力士。変化も思い切った技もない、稀勢の里にとっては最もくみしやすい相手だったにもかかわらず、真っすぐ当たってくる遠藤を止めることすらできなかった。ただ、ケガを抱えた本人は苦戦を覚悟のうえで出場を決断した。場所を全うするつもりでいるとは思う。どういう結果になっても、休場という横綱の特権を使うようなことはないとみていますが……」
支度部屋で何を聞かれても生返事だった稀勢の里は帰り際、5日目以降も出場する意向を示したが、八角理事長(元横綱北勝海)は、「相手を見てしまっている。この負けは尾を引きそう」と厳しい見方。遠藤に敗れても、番狂わせの座布団が舞わなかった国技館に、不穏な空気が流れ始めた。