もっか首位打者 巨人小林の成長を阻んできた周囲の白い目
巨人の小林誠司(28)のことを、ずっと気の毒に思っていた。
盗塁阻止率は2年連続で12球団トップ。昨年の捕逸はわずかに2で、これもセ・リーグの正捕手では最少だった。地肩が強く、スローイングも正確。キャッチングも悪くない。いい捕手の条件は「しっかり投げて、しっかり捕れること。これに尽きる」と考える私の評価に当てはめると、小林は現在の球界でナンバーワンの捕手と胸を張っていいはずなのだ。
が、周囲から聞こえてくるのは、欠点をあげつらう声ばかり。中でも、打率2割そこそこの打撃面がやり玉に挙げられてきた。実際、2016年が.204、昨年が.206で打率は2年連続で12球団の最下位。巨人の首脳陣からも「せめて2割3分は打ってくれないと」と、ため息交じりの声も聞こえていた。
■WBCで話したこと
本人にはプレッシャーだったろう。正捕手を務めてくれた昨年3月のWBCでも、打撃練習中に首をかしげる姿を何度も見た。思わず声を掛けた。
「悩む必要なんてないだろう。おまえの守備力があれば、打つ方は2割で十分。そうだろ?」
「いや、せめて、2割5分は……」
「バカか(笑い)。2割と3割の違いがなにか分かるか? 10回打席に立って、7回失敗するか、8回失敗するか、その程度のことだよ」
そんな話をした上で最後に付け加えた。
「キャッチャーの目線で考えたらどうだ。相手の8番打者を迎えて、おまえなら初球からフォークやスライダーを投げさせるか? 投げさせんだろ。真っすぐの確率が圧倒的に高い。だったら、初球からヤマを張って、それを狙う。打率2割でも、ここぞというときに貴重な一本を打つだけでだいぶ印象は変わるぞ」
打率が低い打者が初球に手を出して凡打に倒れると、ベンチで白い目を向けられる。“打てないんだったら、せめて粘れよ”と、直接そう言われないまでも、周囲の心の声が聞こえる。で、打ちにいくべき球を見逃し、投手有利のカウントになって、打席で常に後手に回るという悪循環。小林の打撃面での成長を阻んでいたのはこれに尽きると思っていた。
そんな小林がセの首位打者に躍り出た。ファーストストライクから積極的に打ちにいく姿勢が出てきたのがいい。
3割を大きく超える今の打率を、シーズンの最後までキープできるかは分からない。正直、難しいとは思う。しかし、仮に昨年までの打率に落ち着いたとしても、小林にはそれを補って余りある守備力がある。巨人首脳陣は、小林の打率が急降下したとき、間違っても打撃優先の起用でコロコロと捕手を代えるようなことだけはしてはいけない。