少年相手にフォーク 何事も“全力投球”の元ロッテ村田兆治
「アキレス腱一本勝負? なに、それ?」。ポカンとする記者たちを見回すと村田コーチはこう付け加えた。
「アキレス腱が切れる寸前まで走り込まないとダメだ」
「エッ、そんなにアキレス腱に負担をかけていいの? どうやって切れる寸前だとわかるの? 万が一、切れたらどうするの?」。報道陣はみなそう思ったが、口には出せなかった。村田コーチの自信と迫力に圧倒されたからだ。もちろん「アキレス腱うんぬん」は投手にとって走り込みがいかに大事かを、村田コーチ独特の言い回しで表したものであろう。
村田氏はユニホームを脱いだ後、離島での野球教室や大会を行い、野球の底辺拡大に熱心に取り組んでいる。ある時、村田氏が少年相手に投げたことがあった。速球になかなかバットにボールがかすらない中、1人の少年がファウルチップした。大喜びする少年。その直後だ。村田氏はフォークボールを投げると空振りさせた。そして思わず小さくガッズポーズをしてしまったそうだ。
村田氏のモットーは完全燃焼という。何事にも全力投球だ。多少の手加減はしても、子供相手だからとミエミエの手抜きなどかえっていけないと考えだろう。いかにも村田氏らしい。
▽富岡二郎 スポーツジャーナリスト。1949年生まれ。東京都出身。雑誌記者を経て新聞社でスポーツ、特にプロ野球を担当。