肩が強くなくても盗塁を刺せる正捕手・谷繁元信の高等技術
中日のコーチを務めた2005年から2年間、私は落合博満監督が名古屋市内に所有するマンションに住んでいた。04年にコーチ契約をする際、球団に「監督のマンションが空いているけど、どうする?」と勧められたのだ。ナゴヤドームから5キロほどの場所にあり、当時の二軍監督も住んでいた。ただ、そのマンションに落合監督はいなかった。東京に自宅があるが、名古屋ではホテル暮らしをしていたようだ。
■タクシーチケットをどっさり渡され…
中日はコーチ陣の待遇が良かった。他球団と違うのは「自由に使っていいよ」とまとまったタクシーチケットをポンと渡されたこと。私は30分ほどかけて徒歩で通ったため、ほとんど使わなかったが、「ナイター後くらいは乗って帰っていいんだぞ」と球団に念を押されたほどだ。太っ腹だと思ったが、落合監督が「コーチ陣に不自由な思いをさせないように」と球団に頼んでいたからだった。
捕手コーチとして勉強になった男が、当時の正捕手・谷繁元信である。現役時代、年間盗塁阻止率リーグトップをマークすること計5回。横浜に在籍していた01年には阻止率・543という驚異的な数字を記録した。
まず「際どいゾーンに来たボールをストライクと判定させる」捕球技術、「フレーミング」がうまい。二塁盗塁阻止の際、捕球時の右足の位置から送球時の右足の設置位置が近く、そして素早い。重心移動が少なく、球を捕球し、握りかえてリリースするまでが0・57~0・58秒。これはプロでもトップクラスの速さである。特に強肩というほどではなくても、コントロールが抜群に良く、野手が捕りやすい球の質だった。