秘密兵器は双眼鏡…スカウト界の「キツネとタヌキの化かし合い」は今も健在
19日は見るべき試合が雨で流れたし、ウチのドラフト候補リストに載った選手もいなかった。だから今日は昔話をするよ。
この仕事に就いた当初、先輩から言われたのは「スカウトはウソも仕事だぞ」。今とは違ってインターネットなんてなかった頃、選手の判断基準はオレたちの目と耳が全てだったから、騙し騙されが日常茶飯事だった。
こんなことがあった。オレが狙っていた選手は実力も十分で、性格も真面目。だけど、とにかく顔が悪かった。口は常に半開き。おまけに出っ歯だから、どうやってもボーッとしているようにしか見えない。ソイツの試合で他球団スカウトの後ろに陣取ったオレは、「これはひでえ。性格が顔に出てやがる」「見た目通り気を抜いてるな」「これで女好きだから人は分かんねえ」なんて独りごちる。前に座る連中に聞こえるようにね。
そして、ダメ押し。使う秘密兵器は双眼鏡さ。ミスをしようものなら、おもむろに取り出して選手に向ける。「ヘラヘラしてる場合じゃねえだろ。この大舞台でこれだもんな。普段はもっと酷いはずだ」ってね(笑い)。目の前のスカウト連中にはオレの声が嫌でも耳に入るし、「確かになぁ」なんて話し合ってたよ。