秘密兵器は双眼鏡…スカウト界の「キツネとタヌキの化かし合い」は今も健在
そうやって周りの評価を下げるだけ下げ、ドラフトの対象から外しておいて、下位で指名するんだ。彼らがその後プロで活躍したケースはごまんとあるよ。チャラそうだったり、ブ男はオレの得意分野だったね。
逆に煮え湯を飲まされたことも数知れない。ニセの情報を根拠に獲得に走り回って失敗したこともあるし、スカウトが絶賛していた選手をわざわざ練習場まで視察に行って無駄足を踏んだこともある。ウソをついたヤツが後日、ニヤニヤしながら「どうでしたか?」って話しかけてきた時は怒りよりも情けなさが先立ったね。
近頃はキーボードを叩けば選手のデータがたくさん出てくる。以前ほどオレたちの目や耳への依存度は少なくなってきたものの、それでも情報操作は欠かせない。
最近だと、マスコミを利用することが多いかな。試合後に「あの選手はどうでしたか?」って聞いてくる記者に対して、悪いことはまず言わない。プロの器じゃないと思っていても、それらしいことを言っておくのさ。どこかの若いスカウトがうのみにしてくれたら儲けものだ。
今大会では横浜(神奈川)の左腕・金井慎之介が打者か投手か、評価が分かれている。情報戦はもう始まっているんだ。
オレたちスカウトの多くは単年契約。不安定な世界で生き抜くために、使える手は何でも使うのさ。(つづく)