濡れたボールをそのまま投げる胸中…35歳で知恵と工夫が必要と痛感
■変化球を待たれる屈辱
打者に変化球を待たれるようになったら、投手としてはかなりつらい状況と言える。屈辱的と言っていいかもしれない。変化球を待ちながら、速球にも対応できるということだからだ。
対戦を重ね、手の内というか配球パターンも分かってくると、追い込んだらどうせスライダーでしょ? と思われる。そう思われている中で、裏をかいてストレートを投げても、いとも簡単にファウルにされてしまう。そうなってくるとツーシームのような動く速球が有効になるのだ。
例えば当時の広島は野村謙二郎、金本知憲、江藤智、緒方孝市、前田智徳……と、打線にそうそうたるメンバーがそろっていた。甘く入ったらやられるし、ランナーに出たら走ってくるからやっかいなことこのうえない。
だからこそ1球目からウイニングショットや変化球を投げていくのだが、彼らは最初からこちらが打ち取りにいく勝負球を待っている。どうせ、最終的にはくるわけでしょ、そのボールが、といった感じ。裏をかいてストレートを投げても、いとも簡単にファウルにされれば、より厳しい状況に追い込まれる。より厳しいボールを、より厳しいコースに投げようと思えば、四球や死球につながる。
力の落ちた投手は、出口なしの袋小路に入り込まないためにも、知恵と工夫が必要だと痛感するようになった。(つづく)