耐える、やり切る──戦後の日本のマラソンは〈完走の美学〉に根差した持久走、すなわちベタ足走法で、田中さんもボストンでは〈金栗足袋〉を履いた。いまはスピードが主眼のキック走法を支える厚底シューズ。時代は移り、環境が変わり、問題はアイデアがどう変わるかになるだろう。これからの駅伝、マラソンシーズンでは、その辺を見てみたい。
田中さんは被爆地・広島の出身だったから、現地では「アトムボーイの優勝」として話題になった。自己負担の70万円という途方もない渡航費は、同郷だった織田幹雄や進学の決まっていた日大OBたちが必死にかき集めたという。