大谷翔平は「個人のイチロー」から「勝利の松井秀喜」へ…思考変化に潜む落とし穴
大谷翔平(28=エンゼルス)が決勝の2号2ランを放った4日(日本時間)の対マリナーズ戦。シアトルでの3連戦がスタートする直前のことだ。
試合前の練習中、大谷は外野にイチロー(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)の姿を認めると、歩み寄って帽子を取って挨拶。握手をして1分ほど、談笑した。
大谷にとって、イチローは特別な存在だ。単なる憧れというだけではない。エンゼルス1年目のスプリングトレーニングで32打数4安打の打率.125と低迷すると、同じアリゾナにいるイチローのもとを急きょ訪れてアドバイスを仰いだ。右足を上げることをやめ、すり足のフォームにすると、開幕2戦目から3戦連続本塁打。好調な滑り出しが、新人王獲得につながった。
イチローとは思考というか、基本的なスタンスに共通部分がある。イチローは明らかな個人主義者。もちろんチームが勝つのがベストだが、「4タコでチームが勝つより、負けても4打数4安打の方がいい」というタイプ。「選手は自分の力を出すことを考えればいい。勝敗の責任は監督が負う」というオリックス時代の指揮官だった仰木彬監督(故人)の薫陶を受けたことが大きい。
大谷も当初は、このスタンスだった。メジャー挑戦した際の最優先事項は、チームの勝利より何より、メジャーでも投打の二刀流選手として結果を出すこと。ポスティングシステムでメジャー入りするときに、最終面談までこぎつけたのは7球団といわれ、そのほとんどは当時、DHのあったア・リーグ。守備に就かなければ出場機会の限られるナ・リーグや、常勝を義務付けられてファンやメディアが厳しい球団の大半は、最初から除外された。獲得を目指しながら面談にすら進めなかったヤンキースのキャッシュマンGMは「我々のプレゼンは完璧だったが、ニューヨークがビッグマーケットであることは変えようがない」と、どうぞ西海岸の小規模都市でプレーしてくださいと言わんばかりの捨てゼリフを吐いた。
そんな大谷のスタンスに、投打でトップクラスの成績を残すようになった2021年ごろから変化が生じた。同年9月には「ファンも球団自体の雰囲気も好き。ただ、それ以上に勝ちたいという気持ちが強い」「ヒリヒリする9月を過ごしたい」と発言。エンゼルスに移籍して以降、4年連続負け越しの現状にイラ立ち、怒りを爆発させた。