元阪急・高井保弘 圧巻の予告決勝弾「俺が決めちゃる。おまえは道具持ってバスで待っとけ」
この快挙は決して偶然ではなかった。そこには高井ならではの準備と読みがあった。というのも、高井は頭角を現すようになった72年ごろから投球時の投手の動きにクセがあることを見抜き、例えば南海の江夏豊は「ワインドアップの時、グラブに入れる手が深い時はカーブ。グラブから手首が出る時はストレート」といった具合にノートに克明にメモしていたのだ。
松岡からホームランが打てたのも、もしかしたら日本シリーズで対戦するかもしれないとオープン戦の時にチェックしておいたのが役立ったと後年、語っている。
生涯最後となった通算27本目の代打本塁打を打つ前、高井は次に代打の用意をしていた若手の選手に声をかけた。
「俺が決めちゃる。おまえは道具を持ってバスで待っとけ」
相手は変則フォームで知られた永射保。高井は「グラブを高く上げてそのまま動かさずに下ろした時は速球」であることを見抜いていた。そして、その速球を予言通りに決勝ホームラン。今の球界、こんな頼りになる「職人」はいない。
(ライター・清水一利)