衣笠祥雄は左肩を骨折しながらフルスイング「1球目はファン、2球目は自分、3球目は西本君のために」
衣笠祥雄(元広島野手)
1987年、当時の世界記録である2215試合連続出場を樹立し、王貞治に続くプロ野球選手2人目となる国民栄誉賞を受賞した。17年にも及ぶ連続出場記録ももちろん偉大だが、70年代後半から80年代にかけて圧倒的な強さを誇った広島黄金時代に山本浩二とともに赤ヘル打線を牽引した強打者でもあった。
衣笠は連続出場記録が途絶えそうになるアクシデントに幾度となく見舞われた。その中でも最大のピンチとなったのが79年8月1日、広島市民球場での巨人戦。1122試合目のことだった。
この日、巨人の先発は入団5年目の西本聖。西本のシュートを初めて見た当時の監督・長嶋茂雄が「これだけで勝てる天下一品のシュートだ」と絶賛したそのシュートはアウトコースからインコースに鋭く曲がる、右バッターにとって厄介なボール。しかも西本は、どんな相手に対しても臆せず内角を攻めるピッチングを身上とした強気のピッチャーでもあった。
7-1と巨人リードで迎えた七回裏、三村敏之、萩原康弘に死球を与えた西本に相対したのが衣笠だった。2つの死球で広島ベンチがエキサイトする中、バッターボックスにいるのは連続試合出場を続けている衣笠。並の投手なら死球を怖がるあまりインコースに投げることはできないだろう。
しかし「雑草」と呼ばれ、同僚の江川卓に強烈なライバル心を燃やして巨人のエースの座を争っていた強気の男・西本である。何の躊躇もなく思い切ってインコースに得意のシュートを投げるとボールは衣笠の左肩を直撃した。