ただでさえ凶作なのに…甲子園出場の有望球児がことごとく大学進学か就職を選ぶ複雑事情
大学生投手が豊作
森だけではない。昨夏に続く全国制覇を狙う仙台育英(宮城)には複数のプロ注目選手がいるが、その中でプロ志望を表明しているのは主将で内野手の山田脩也くらい。最速151キロ右腕の高橋煌稀も、捕手の尾形樹人も大学に進むという。
今大会最大の目玉で高校通算140本塁打の花巻東(岩手)の佐々木麟太郎も、明大や早大を筆頭に全国の大学から声が掛かっているそうで、プロか進学か揺れているともっぱらだ。
パ球団のスカウトがこう言う。
「今年は大学と社会人の投手が豊作ということも関係していると思う。ウチもそうですが、ほとんどの球団が彼らをドラフト1位で指名するんじゃないか。つまり高校生がドラフト上位になるのは難しい年なのです。なので大学や社会人で力をつけ、上位指名でプロ入りしたいと考える球児が多いのかもしれません」
大学生投手が豊作という事情も、森のように考える高校生の背中を押しているようなのだ。別のスカウトが言う。
「進学実績を売りに選手集めをする高校が増えていることも大きい。実際、関東のさる甲子園常連校は『今年この選手をもらってくれたら、来年はあの有望株を差し上げます』と、大学に向けて学年をまたいだ抱き合わせプランまで用意していると聞く。そういった高校が増えれば、プロ志望の選手は減りますよ。ホント、参ってしまいます」
■「高卒プロはやめて」
高校球児をもつ親たちの考えもあるだろう。前出の森によれば「両親は高卒プロというのはやめて欲しいって。大学に進学して欲しかったって言うんですけど、いい企業なので。野球のレベルも高いし、有名企業なので別にいいよって(言った)」そうだ。
プロの世界で活躍する選手はひと握り。人生は野球をやめてからの方が長いわけだし、大学くらいは出ておいた方がいいと考える親御さんは少なくない。社会人野球に進めば、たとえプロからお呼びがかからなくても会社に残れる可能性も出てくる。我が子の将来を思えばこそ、大学や社会人に進むのが堅実と親が考えるのは不思議ではない。
「高卒とか、順位とか気にしないくらいの自信とハングリー精神がなければ、プロで大成しない。迷うくらいならやめた方がいい」
とは、あるベテランスカウトの“捨てゼリフ”だが、不作を通り越して凶作の高校生のトップクラスが軒並み大学、社会人では泣くに泣けないだろう。