「行人坂の魔物」町田徹氏
■「銀行と闘った実在のヒーローのノンフィクションです」
歴史ものと金融ものが合体した異色のノンフィクションである。
「東京・目黒区にある行人坂は、魔物がすんでいるのではないかといわれるほど昔から不吉なことが起きているんですね。本書後半で詳しく書いた目黒雅叙園のお家騒動も、どろどろした犬神家みたいな人間ドラマがあるんです」
不吉な出来事とは、江戸時代、急な行人坂の代わりに緩やかな坂を開いた菅沼権之助が幕府によって死罪となったり、行人坂近くの破門僧による放火が原因の明和の大火など。
そして、明治維新には行人坂にあった武家屋敷が薩長の軍人の手に渡り、何代目かの所有者になる細川力蔵は、石川県から上京し銭湯の住み込みから成功した人物だが、まさにこの男が「昭和の竜宮城」と呼ばれる目黒雅叙園を始めた。
「豪華絢爛(けんらん)な雅叙園の水面下では、会社や土地の乗っ取りが繰り広げられ、バブル期最大の経済事件の舞台になりました。“ハゲタカ・ファンド”ローンスター社の再開発プロジェクトは、建築基準法の改正8日前に80メートルの高層ビルを申請し、未完成の建物を高値で販売する『青田売り』や、地元住民が大事にしている八百屋お七の井戸を壊すなど、手口が強引です」