目からウロコの浮世絵の楽しみ方
櫓を漕ぐ船頭の腕と毛むくじゃらの脛を、どアップで描いて、その向こうに漁船が浮かぶ海を描いた「はねたのわたし弁天の社」も大迫力。赤瀬川氏は外国人がこのエキゾチック・ジャパンな絵を見て、「測量船……、SM……、奴隷」に間違えるのではないかとひそかにほくそ笑む。広重の名所絵が〈あぶな絵〉になってしまうかも?
ちょっと意外だが、雨を細い線で表現するのも日本だけだとか。赤瀬川氏に言わせるとこれは〈漫画的表現のはしり〉。「六十余州名所図会」の「美作 山伏谷」では、雨に強風が加わって、編み笠を吹き飛ばされた旅人が描かれている。あわてて笠を追いかける様子は、ほんとに漫画そのものだ。
ほかにも、画面の端に描かれた障子に遊女の影が映り、畳の上に着物の裾だけが見えて艶っぽい雰囲気を醸し出す「名所江戸百景」の「月の岬」など、広重の絵は「おっ」と思わせるアイデアがいっぱいなのだ。
「浮世絵美人解体新書」安村敏信著
遊女だってお客のいないときは仲間と遊んでいる。鳥居清満の「枕相撲」では、畳の上にもたれ合って立つ枕が2つ。それにぶつけて倒すのか、2人の遊女がそれぞれ枕を手に持ってにらんでいる。鈴木春信の「風流五色墨 長水」は、娘が持った恋文を若衆が奪おうとする恋人同士のじゃれ合いを描いている。見ていると、ついニヤッと笑ってしまう。美女だけでなく、妖しい魅力を漂わせる女装した男を描いた絵も。さまざまな角度から美人画の魅力を紹介した一冊。