「店長がいっぱい」山本幸久著
自戒を込めて書くが、書評家の注目は新人作家に集中しやすい。それは新しい才能と出合うことが本を読む喜びのひとつであるからだ。しかしそのために中堅作家の作品への注目がやや遅れてしまう傾向は否定できない。
例えば山本幸久だ。「笑う招き猫」で小説すばる新人賞を受賞したのが2003年。もう10年が過ぎている。その間、「凸凹デイズ」という傑作をはじめ、水準以上の小説をずっと書き続けている。各社からその作品が刊行されているということは、それなりに読者の支持があるということでもあり、私ごときが言うことでもないが、もっと注目されていい作家だと思う。
本書は丼チェーンの7人の店長の、奮闘する日々を描く連作集で、相変わらず読ませる。バイト店員に厳しく接しすぎる古株店員に悩まされたり、仕事を覚えようとしない老人店員に振り回されたり、本社の2代目が正体を隠して働きにくるサポートをしたり、店長は大変なのである。
各短編をつなぐのは、本社フランチャイズ事業部の霧賀久仁子だ。31歳、独身。店長が店の運営について悩んでいると電話1本で飛んでいき、居酒屋であれこれ愚痴を聞いて一緒に悩み、具体的な提案をする。それが彼女の日常だ。仕事が出来るので嫉妬もされるが、霧賀久仁子は誰に対してもそう接するので彼女を慕う人は多い。いわば本書の狂言回しだが、とてもいい味を出している。