街歩き歴30年 作家・川本三郎氏の「東京文芸散歩」
■四谷・飯田橋
島田荘司著「火刑都市」(講談社 648円)は東京論を踏まえて描かれた珍しいミステリー。時は82年。四谷の雑居ビルで火事が起こった。焼死体の男性には恋人がいたというが、姿を消している。徹底して足を使う刑事が東京散策者となって謎の女を追う。
「今は面影がないですが、昔は東京は水の都だったんですね。ところが、川や掘割が埋められ、30年前には飯田橋駅に沿ってあった『飯田堀』も埋め立てられ、陸の東京になった。犯人を追う過程でそんな都市の歴史や、東京が東亰と呼ばれていた理由などにも触れていますので、読んでから街を歩くと、ここに堀があって水が湛えられていたのかなど、水の都を感じられると思います。また、地方出身の目に映る東京も描かれています。上京者が感じた“東京”に共感する人も多いのではないでしょうか」