街歩き歴30年 作家・川本三郎氏の「東京文芸散歩」
「シリーズ2の『毒猿』が発表された91年は都庁舎が完成した年であり、そのきらびやかなビルの裾野に広がる雑踏のような歌舞伎町が舞台です。台湾閣という建物を死闘の場として登場させているのですが、これは新宿御苑の中に実在。昭和天皇の成婚祝いに台湾人が贈ったという歴史があることを、私はこの本で初めて知りました」
いずれも犯罪と都市の関わりを描いた興味深い作品だ。
■渋谷
1960年代前半、東京五輪を間近にした渋谷を舞台に描いた青春小説が荒木一郎著「ありんこアフター・ダーク」(小学館 690円)だ。
「ありんことは当時、渋谷の道玄坂にあったジャズ喫茶で、ここに通い、町を『学校』にしている主人公・僕の目に映る渋谷がイキイキと描かれています。今は失われた東京の町を走る都電、恋文横丁、映画館のパンテオンなども懐かしい。さながら東京の町が裏の主人公といった感じですね。また63年当時は学校教育と別に、独自にジャズやファッションなどを楽しむ“不良”が輝いていた時代でもあり、そこも読みどころのひとつです」