【格差と資本主義】金融資本主義がもたらした中間層の転落
「誰がアメリカンドリームを奪ったのか?」(上・下) ヘドリック・スミス著、伏見威蕃訳
かつて世界のだれもが信じていたアメリカンドリームの神話。しかし著者は既に30年も前から「私たちアメリカ人は(略)大家族ではなくなった」と冒頭からこう断定する。
「現在のアメリカは、権力、金、イデオロギーでくっきりと二分された国になっている。政治は怨恨に満ち、二極化し、政治指導者たちはもっとも基本的な問題すら解決できない」
始まりは1970年代初頭。保守派のニクソン政権時代だったが、大衆の支持をねらったニクソンの税制改革は企業に厳しく、ここから財界の巻き返しが始まる。
90年代になると高い品質を追求して競争力を確保する伝統的な米製造業の発想はウォール街の金融資本主義に取って代わられ、コストと工場と雇用を削減する劇的なダウンサイジング手法が大物投資家の心を射止める。
一方で、堅実な中流層から雇用と安定した生活の展望を奪い去って、格差社会が本格化し、恵まれた従業員が健全な消費者になるという信念が「株主利益の最大化」に敗北する。
こうして起こった中間層の転落がアメリカンドリームの消滅をもたらしたのだ。
(朝日新聞出版 各2000円+税)