「流転 緑の廃墟」中筋純著
建物だけでなく、街灯や川を渡る鉄橋、峠に乗り捨てられたトラック、機関車、ケーブルカー、そして遊園地など、さまざまなものが廃墟化して、緑に覆われていく。緑を構成するのは植物だけではない。ある写真ではまだ使えそうな椅子が置かれた床一面が苔で覆われ、まるでモダンアートのような様相を呈している。
写真からは植物以外の生き物の気配はまったく伝わってくることがなく、ページをめくりながら、人類が滅亡した後の世界がついつい連想されてしまう。
と思っていたら、見開き一面に緑に覆われた、今にも水没ならぬ「緑没」しそうな町の風景が飛び込んできた。あのチェルノブイリの近くで撮影された写真だ。続くページには福島の各所で撮影された写真が並ぶ。
朽ち果てゆく廃墟と横溢する植物の生命力という相反する二者の競演がつくりだす静寂の世界に浸っていると、心が怪しく波立ってくる。(アスペクト 2300円+税)