「貧困の倫理学」馬渕浩二著
地球上の8人に1人が飢餓に苦しむ今、豊かな先進国に暮らしながら、世界の貧困問題を放置することは倫理的に許されるのか。この問いに取り組む先人たちの思想を紹介しながら、現代の倫理のあり方を提示する思索のための手引書。
関係者の利益を増大させよという功利主義的な原則を採用する哲学者シンガーは、援助によって多数の貧困者の利益が増大するゆえに、豊かな国の住人には援助の義務があると説く。功利主義の対極にあるカント倫理学を採用するオニールは、「カント的に正しい世界」にもとづき、困窮した他者に対する援助を正当化する。各理論とそれに対する批判の論点を解説しながら、貧困問題に対する我々の義務について考える。
(平凡社 840円+税)