「藪医 ふらここ堂」朝井まかて著
神田三河町の小児科医、天野三哲は、朝が苦手なうえ無愛想で、〈藪のふらここ堂〉とあだ名されている。あるとき、駿河町の大店、坂本屋の手代が飛び込んできた。主の子どもが高熱を出したのに、かかりつけの医者が留守だという。
娘のおゆんを連れて行ってみると、火鉢で熱気がこもった奥の座敷で上等な布団の山に埋もれて4、5歳の子どもが寝ている。三哲はおゆんに解熱剤を出すように言ったが、薬箱の中には干からびた生姜のようなものが転がっているだけだ。すると三哲は立てこめた障子を開け放ち、布団の山をはがし始めた。「な、何をなさるっ」
江戸の名物小児科医を描いた9編の短編集。
(講談社 1600円+税)