監視社会に陥った近未来の日本を描いた 赤川次郎氏に聞く
「三毛猫ホームズ」や「三姉妹探偵団」など数多くの人気シリーズを抱え、累計発行部数は3億冊超。軽妙なユーモアミステリーを得意とする赤川次郎氏だが、最新作の「東京零年」(集英社 1900円+税)は一転、閉塞感漂う監視社会を描く反ユートピア小説だ。権力の暴走がもたらす悲劇は、我々が生きる現代社会とも不気味にリンクし、不安をかき立てられる。
舞台は近未来の日本。大学生の生田目健司が、電車の事故で永沢亜紀という女性に助けられるところから物語は始まる。しかし、健司の名字を聞いた途端顔色を変えた亜紀は、「あんたなんか助けるんじゃなかった」という言葉を吐き捨てて去っていく。健司の父で元検察官の重治は、かつて国の中枢で権力をふるい、戦前のような警察による監視社会をつくり上げた人物だった。
「今、街の至るところに防犯カメラがあふれています。テレビでは犯罪解決に役立てられた良い報道しかされませんが、集められた個人情報は果たして適正に管理されているのか。そもそも、“防犯”カメラという呼び方でごまかされそうですが、すべての国民の生活を隅から隅までつかんでおける“監視システム”とも言い換えることができるはずです。その違和感に気づかないふりをしていては、監視社会の暴走が物語の中だけにはとどまらなくなる可能性も出てきます」