父の青春をめぐるノンフィクションを描いた 目黒考二氏に聞く
辞典を読むのが趣味だった寡黙な父。そんな父に自分の知らないドラマチックな過去があった。父の青春とはどんなものだったのだろう……。そんな気持ちに動かされて、目黒氏はかつて父親のいた場所を訪ね歩き、「昭和残影 父のこと」(KADOKAWA 1700円+税)を書きあげた。
それは1985年の夏、著者が39歳のとき、墓参のため両親と共に立ち寄った北海道の親戚の家でのことだった。
「叔父が『あなたのことが本に出ていましたね』と言ったとき、父がとぼけていたのがすごく気になっていたんです。で、こっそり後で調べたら、その本というのは、山岸一章著の『聳ゆるマスト-日本海軍の反戦兵士』という1981年に新日本出版社から出た本のことでした。父が若いころ反戦活動をして刑務所に入ったことは聞いていましたが、その本を読んで初めて、母と結婚する前に渡辺初代という女性と結婚していた事実を知ったんですね」
夫婦は自宅を「無産者新聞」の川崎支部にしていたことに絡んで、1933(昭和8)年に検挙された。そして、妻の初代は特高に虐待され、釈放後間もなく亡くなった。