監視社会に陥った近未来の日本を描いた 赤川次郎氏に聞く
亜紀の父親である浩介は、介護施設に入居している。脳出血で倒れ、言葉も話せない状態なのだ。かつて浩介は、反権力ジャーナリストの急先鋒として、検察官時代の重治と敵対していた人物だった。しかし、巨大な権力は浩介に関わる者を次々といたぶり、消し去り、反権力活動は徹底的に叩き潰されていた。
「国会前で盛んに行われている安保法案に対する反対デモには、若者たちの参加も増えています。ところが、デモのようなものに参加すると、就職活動の際に企業に敬遠されるという声も聞こえてきます。これのどこが自由な国か。自分で考えることも行動することもしない、余計なことはしない人材を企業は求めているのでしょうか」
物語は、父の過去を知った健司が、亜紀と共に監視社会がもたらした悲劇を探り、権力にあらがう姿が描き出されていく。著者による切実な問題提起が込められた本作は、読み進めるほどに近未来というほど遠くない、間近に迫った現実ではないかと思わされる。
「執筆を開始したのが2012年。それから3年で、日本のありさまや政権の暴走が、物語に急速に近づいてきていると感じます。日本は、戦後処理の仕方が影響してか、重大な問題ほど誰も責任を取らない国になってしまいました。福島第1原発の事故も、あれほどの被害をもたらしておいて責任の所在はうやむやのまま。再び戦争が起きても、国は責任を取らないし、国民を守らないでしょう」