「マンホール」石井英俊著
マンホールの「蓋」(以下、マンホールと呼ぶ)は、全国に約1400万個もあるそうだが、毎日目にしているはずの自宅やオフィス近くのそれに何が描かれているのか、答えられる人はなかなかいないのではなかろうか。
下水道は各市町村が行う事業のため、マンホールも各自治体が独自に作っており、それぞれデザインに工夫が凝らされているのだ。
市町村の「花・木・鳥」を主流に、祭りや風景、名産品、そして歴史まで、その土地ならではのテーマが丸いキャンバスに凝縮して描かれている。
本書は、そのマンホールに魅せられて18年、1600以上の市町村を訪ね歩いてきた著者が、折り畳み自転車を駆使して撮影してきたさまざまなマンホールの写真を紹介しながら、その絵柄から垣間見るその土地の歴史や文化を紹介するフォト・ガイドブック。
まずは各都道府県の県庁所在地のマンホールがずらり。多くの人が一度は目にしているはずの東京都のそれは、都の花であるソメイヨシノ、木のイチョウ、そして鳥のユリカモメがすべて円の中に盛り込まれている。しかし、ソメイヨシノとイチョウはすぐに分かるのだが、ユリカモメの姿が見つからない。
実は外周に配された波目模様が、飛んでいるユリカモメを正面からとらえた姿をデザインしたものだったのだ。解説を見て、写真をもう一度見ると納得。こうした隠れた絵柄を探すのもマンホール観賞の醍醐味の一つだという。県庁所在地ではないが、「サ」の文字が9つぐるりと一周円を描くように描かれたなぞなぞのようなマンホールまである(「サ」が9つでクサツ=群馬県草津町)。
マンホールというと、タイヤや人の靴裏に磨かれ、鈍色の渋い光沢を放っているイメージだが、中には鮮やかに彩色されたものもある。茨城県水戸市のカラーマンホールは、ちゃんと紅白の梅が描き分けられている。また、広島市は、広島カープのカープ坊やがかぶる赤ヘルと紅葉の赤が鮮やかだ。広島市の別バージョンでは、平和を祈念する折り鶴がデザインされている。
県庁所在地の他にも、富士山をテーマにした静岡県と山梨県のマンホールを見比べてみたり、世界遺産の「富岡製糸場」(群馬県富岡市)や「合掌造り」(岐阜県白川村)をはじめとする歴史的建造物をデザインしたマンホール、「ぶり」(富山県氷見市)などの特産品を描いたものなど、膨大なコレクションの中から選りすぐりの400個近いマンホールを公開。
マンホールの世界の意外な奥行きに触れ、一読したら、きっと外出先で足元が気になってしょうがなくなるに違いない。(ミネルヴァ書房 1800円+税)