【受け継がれる戦争体験】直接の体験者の数が年々減少し、戦争体験が空洞化しようとしている。テロの世紀にこそ、戦争体験の継承が必要だ。
「兵士とセックス」メアリー・ルイーズ・ロバーツ著、西川美樹訳
何千何万の若いGIが我が物顔であたりを歩き回り、現地の若い娘がその首っ玉にかじりつく。ドラマに出てくるパンパン・ガールの典型的な姿だが、実はこの光景、日本だけの話ではなかった。ドイツ軍の占領下から解放されたフランスの各地で見られた、いやそう思われたのだ。
本書は第2次大戦期のフランスにおけるアメリカ兵たちの性的行動をテーマとした社会史。著者はフランス史が専門のアメリカ人女性歴史学者。その観点はフランスに駐留するアメリカの兵隊たちが頭の中に思い描いていた性的幻想の内実を明らかにすること。もともと性的にオープンという紋切り型のフランス女性のイメージが兵隊向けの軍の新聞では幾倍にも増幅され、レイプに走る男たちの自己正当化の根拠にさえなった。「フランスの女の子たちは美人で、しかもお手軽だ」。こんな思い込みを脳裏に詰め込んだ、若くたくましく精力を持て余した男たち。ジェンダー論の観点から書かれた、いわば“フランス版従軍慰安婦論”の労作である。(明石書店 3200円+税)