「白日の鴉」福澤徹三著
福澤徹三の小説はいつもリアルだ。そのドラマは小説の中の出来事だというのに、私たちの日常と地続きのような気がしてくる。他人事のような気がしないのだ。まるで友人、あるいは隣人の話を聞いているかのようだ。
ホラー小説、警察小説、アウトロー小説と、福澤徹三の小説は幅広いが、どのジャンルの作品でもその事情は変わらない。
たとえば本書は、痴漢容疑で逮捕された製薬会社のMRの苦闘の日々が描かれる。なぜ自分がハメられたのかわからないが、無実であることは本人がいちばんよく知っている。彼を逮捕したのは交番の新人巡査で、逮捕はしたものの、彼は何かおかしいと思って、個人的な捜査を開始する。それを助けるのは国選弁護で暮らす老弁護士だ。本書は、この3人が冤罪と闘う物語だが、読み始めたらやめられず一気読みの面白さである。
なによりもいいのは、この3人が普通の人間であることだ。老弁護士はけっしてごりごりの正義派ではなく、金に困って犯罪者の弁護も引き受けたりもする。しかし彼の中には善意の目も眠っていて、それが少しずつ浮上してくるとのプロットを読まれたい。製薬会社のMRも、交番の新人巡査も、ヒーローではけっしてなく、私たちと同様に何かあれば悩み迷い、うろたえもするという造形を見られたい。登場人物がこのようにリアルなので物語もまた滑らかなものになる、ということだろう。福澤徹三はホントにうまい。
(光文社 1800円+税)